上級者向けの練習曲とは?
この記事では、上級者におすすめのピアノ練習曲集と、その使い方について解説します。
【上級者】どのくらいのレベル?
練習曲の解説の前に、「上級者」の目安を説明しておきます。
あくまでも主観的なものになってしまいますが、長い講師経験から「このくらいが上級者かな」と感じる部分を書きました。
演奏技術だけではなく、音楽の総合的な力も考慮しています。
- ハノンなどで、すでに24調全部のスケール・アルペジオを練習済み。暗譜(カデンツも)、正確な運指で弾けること
- チェルニー50番程度の練習曲は弾ける。30番程度なら初見で演奏できる。
- J.S.バッハのインヴェンション、シンフォニアはほとんど弾いたことがあり、平均律を手掛けている。ショパンの練習曲やその他の作品、古典派のソナタなどがある程度は弾ける。
3については、たくさんある作品をここで挙げることは無理なので、今練習している曲で考えてみてください。全音出版や音楽之友社の楽譜の最後に、グレード別出版目録が掲載されているので、参考にすると良いでしょう。
ただ、人によって得意なこと・苦手なことは違いますし、曲の難易度というのは絶対的なものではありません。あくまでも、参考程度に…。
私は、3より1、2のほうが上級といえる大切なポイントだと思っています。1と2がむずかしい方は、まず中級者向けの練習曲で、基礎固めをしましょう!こちらの記事を参考にしてください。
「身体訓練特化型」の練習曲を取り入れよう!
技術面の悩みを抱えている上級者には、日頃の練習メニューに「身体訓練特化型」の練習曲を加えることをおすすめします。
上級者ですから基本はできているという前提で、さらに4・5の指を強化したいとか、5本の指の独立性を高めたいとか、人によってさまざまな目標があると思います。
思うように弾けない箇所があるとき、なぜ弾けないのか、どうすれば弾けるようになるのか科学的に考えることが大切です。そして、その解決にむけて「身体訓練特化型」の練習曲は威力を発揮してくれます!
曲ではなく、短いパターン練習なので、効率的に技術の練習をして、残りは曲の研究に時間を費やすのがおすすめです。
「身体訓練特化型」の練習曲ガイド(一覧)はこちら
「身体訓練特化型」の練習曲とは?練習曲の分類法を詳しく知りたい方はこちら
上級者向けのピアノ練習曲 おすすめ3選
それでは、本題のおすすめ3選と、それぞれの特徴、効果的な使用法の説明に移ります!

クリックすると各練習曲の詳細にジャンプします!
①ピシュナ 60の練習曲
ピシュナ(1826年~1896年)はチェコのピアニストで、30年間を教師としてモスクワで過ごしています。巨匠エミール・フォン・ザウワーが校訂して出版されたことは、この練習曲の有益性を物語っているといって良いでしょう。
近代ピアノ奏法に必要な諸要素を、簡素な練習課題にまとめ、効率的に練習できるようになっています。
特に、指の独立性、関節の柔軟性と強靭さを培うのに有効です。私は、ピシュナを使うようになってから、ショパンのエチュードOp.10‐2が楽に弾けるようになりました。
- 移調練習はなるべく楽譜を見ずに、自分の頭で考えて移調しましょう。楽譜に気をとられると、指・手首・姿勢などがくずれていても気付きにくくなります。常に、自然な姿勢で弾けているかに注意をはらってください。
- 予備練習がついているものは、まずそれから練習しましょう。あまりに困難な課題は、予備練習だけでも良いと思います。無理は禁物!
- 難しいところを力まかせに弾ききろうとしないこと(指の故障のもとになります)。各指の独立をじゅうぶん感じ取りながら練習してください。
全音版は移調したものがすべて楽譜に書かれていますが、上級者はなるべく見ないほうが良いです。解説付き。
音楽之友社版は、移調するところを省略記号で記しています。
②ブラームス 51の練習曲
大作曲家ブラームス(1833年~1897年)は、ピアニストおよび教師でもありました。この練習曲は、自己の演奏技術を保つために、また弟子の教育用に折にふれて書きためたものを、51曲選んで出版されたようです。
シューマンの妻でピア二ストのクララ・シューマンは、ブラームスのピアノ演奏を「天才的で、オーケストラのようにピアノをひきこなす」と讃えています。
非常にユニークな練習曲で、ブラームスが自分の作品を演奏するうえでどんな技術を求めていたかが透けて見えてきます。
特に、ポリリズム(左右で異なるリズムを同時に弾く)の練習は他ではあまり見かけないので、一度トライしてみてはいかかでしょうか?左手(利き手でないほう)の訓練にも最適だと思います。
- 初めて使う人には、無理のない進め方の順番が校訂者より説明されているので、参考にすると良いでしょう。
- ポリリズム、左手の熟練、親指の熟達、跳躍パッセージ、重音など課題の目的をよく理解して使いましょう。
- 長時間弾きすぎないようにする。毎日少しづつ、ゆっくりあせらず練習すること。
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③アルフレッド・コルトー コルトーのピアノメトード
原題は「ピアノのテクニックの合理的原理」。この本は、研究書として読むだけでもためになります。
アルフレッド・コルトー(1877年~1962年)はフランスの大ピアニストであり、パリ音楽院やエコールノルマル音楽院にて後進の指導にも情熱を注いできたことでもよく知られています。
難しいパッセージを機械的に幾度も反復練習するよりも、そのパッセージに含まれている難しさを、その基本的な原理に立ち戻って、合理的に練習する。
―アルフレッド・コルトー 「ピアノのテクニックの合理的原理」まえがきより
詩的な演奏で知られたコルトーですが、『練習は科学的に合理的に行うべきだ』と述べています。心に刻んでおきましょう!
コルトーは、多岐にわたるピアノ演奏上のすべての技術的な問題を、5つの項目に分類しました。その分類は以下のようになります。
- 指の均一、独立および機敏性。
- 親指の移行(スケールとアルペジオ)
- 重音とポリフォニーの奏法
- 指を開く技法
- 手首の技法、和音の奏法
巻末にはピアノ作品のリストがあり、その曲の難しさが5項目のうちどれに含まれるのか、細かく示してくれています。このリストは非常に参考になり、いろいろな曲を練習する際に役に立ちます。
まえがきや、練習のすすめ方は一度目を通し、自分にとりいれられる範囲で使っていくとよいと思います。
また、他の練習曲にも言えることですが、練習のしすぎもよくありません。
純粋な技術の練習の後には、10分間の完全な休息をとるように、コルトーはすすめています。
肉体の訓練には、筋肉の休養も必要なのです。
まとめ
上級者向けのピアノ練習曲おすすめ3選は以上です。いずれも「身体訓練特化型」の練習曲で、曲を弾く楽しさはありませんが、有用性が評価され長く使われている本ばかりです。
どの本も、すべてを練習する必要はありません。自分の弱点を克服するために必要なところを練習してみてください。ワンランク上の演奏をめざしましょう!
